奈良県の総合周産期医療体制の
一刻も早い整備を求める緊急提言

安心して子どもを生み育てられるように

2006年1112

日本共産党奈良県委員会

日本共産党奈良県会議員団


 

はじめに

  今年8月7〜8日に町立大淀病院で、分娩中の妊婦が意識不明の重体に陥ったため、この妊婦の受け入れ先の打診しましたが、19の病院から断られ、6時間後 にようやく国立循環器病センター(大阪)に収容されるという事態がありました。この女性は男児を出産後、同月16日に死亡していたことが、このほど明らか になりました。今回の事故で尊い命を奪われた故人とご遺族に心からお悔やみを申し上げます。

 死亡した女性の夫は「何が原因であったか、解明してほしい。女性の大きな喜びである、出産した子どもとの対面ができなかったことがどれだけ悔しかったか。再発防止のためにできることは全部やりたい」と涙ながらに訴えています。

 このご遺族の悲しみや、「奈良県にいたら助かる命も助からないのか」との県民の痛切な声に、奈良県当局はどのようにこたえるのかが鋭く問われています。

  医師や看護師の慢性的な不足状況を背景に、そ の激務などから産科医療体制の崩壊が社会問題化しています。とりわけ奈良県における周産期医療体制の二重、三重の立ち後れが、こうした取り返しのつかない 事故を誘発してしまったことについて、日本共産党奈良県委員会は改めて国や奈良県の責任の重大さを指摘するものです。

深刻な周産期医療の遅れが悲しい事故を引き起こした 問われる県政の責任

  奈良県における産婦人科医療の体制は、分娩を取り扱う医療機関の減少から、急速に弱まりつつあります。奈良県内で分娩を取り扱う医療機関は31カ所となっ ていますが、いずれも県北西部に集中しており、県下39市町村のうち26市町村で0となっています。これは実に7割近い自治体が産科過疎の状態になってい ることを示しています。特に県南部では、県立五條病院の産科閉鎖に伴う分娩取り扱いの停止や、民間病院の産科閉鎖などで分娩を取り扱う医療機関がほとんど ない状況に陥っているのが現状です。

 さらに、奈良県の産科医一人あたりの年間分娩取り扱い数が163人と全国で6番目に多い(05年12月1日現在)という、超人的な産科医の過重負担があることも特徴となっています。

  奈良県ではこうした状況の上に、妊娠22週から出産後7日までの周産期の母子医療を担う体制についても、深刻な遅れとなっています。この間、県立医大付属 病院や県立奈良病院に周産期医療を担う施設を設けてきたものの、病床数や医療スタッフの不足、ドクターカーの未配備など、現在の医療需要に見合ったものに なっていないのが実情です。

  奈良県における平成16年度の周産期医療の搬送状況を見ると、新生児搬送については97.8%が県内で収容されていますが、母体搬送については県内収容率が62.8%にとどまり、実に約40%が大阪府を中心とした県外搬送になっています。

 今回の事故もこうした状況が生み出したものであり、周産期医療体制が奈良県の実情に見合ったものに整備されていないことの現れであることは否定できません。

 この間、全国の公立の医科大学の中でただ一つ入学定員を減らしたのは奈良県のみです。この事実をみるとき、県当局が深刻な医師不足に真剣に対応してこなかったことがはっきりするとともに、これが政府の要請によるものであり、国政の責任も重大です。

  看護師の養成についても、正看護師580人、准看護師120人、助産師で25人(11月現在)の定員枠しかなく、県内の需要を満たしていません。にもかか わらず国立奈良病院が奈良市に委譲された際、附設されていた看護学校の閉鎖に何の対策もとってきませんでした。さらに看護師養成のための奨学金すらも、 04年度の200人分を05年度には40人分(予算ベース)に削減してきたのです。

 こうした一連の県当局の対応は、県民の厳しい批判を免れるものではありません。

 奈良県は体制の遅れに責任を感じているのか

  これまで述べてきた医療体制の不備の中で引き起こされた今回の件について、いま県民のなかでは大きな怒りや不安が広がり、二度どこのようなことがあっては ならないという切実な願いがひろがっています。この点で何よりも求められるのは、今回の件について県知事をはじめ県当局の自らの責任を明らかにした真剣な 反省と、二度とこのような悲しいことを起こさないという断固とした姿勢を確立することがまず求められているということを厳しく指摘しておくものです。

 新聞でも「奈良の産科医療に詳しい医師は『県の救急搬送は大阪に頼り、県内の搬送システムの整備をおざなりにしてきた。怠慢を認め、県民に謝罪すべきだ』と憤る」と報じられているとおりです。

  ところが、今回の事態について、奈良県知事は定例の記者会見で「残念なこと」と人ごとのように応え、「大阪府など近畿圏内の病院間でつなげているインター ネットのオンラインに入れていただき、空床状況などの病院の状況がすぐ分かるようにするなど、時間の短縮を可能な限りやっていきたい」とし、「総合周産期 母子医療センターを19年の早い時期には整備したい」と述べたと報じられています。しかし、ここには深刻な立ち後れを来してきた行政の責任について何一つ ふれられていません。そればかりか、知事自らが示した「県内で発生した患者については、県内での医療の提供ができるよう体制整備を図っていく」との県議会 答弁からも後退した姿勢を示していることは重大です。ここには、周産期母子医療体制の整備は、都道府県の責任で進めるものであるとの認識に重大な欠如があ るとしか言いようがありません。

どのような施設が必要か

  国は、平成7年4月に周産期医療にかかる施設の整備等について、厚生省(当時)児童家庭局長通知においてその指針を示し、平成8年5月に、あらためて「周 産期医療対策整備事業の実施について」と題する厚生省(当時)児童家庭局長通知を出して、各都道府県知事に対してその実施を求めてきました。

 その結果、全国で「総合周産期母子医療センター」と「地域周産期母子医療センター」が、それぞれ3次医療圏と2次医療圏を単位として整備されたきました。

 しかし、国の通知から10年を経過した現在でも、全国で8つの県が未整備とされ、その中に奈良県も含まれているのが実情です。

     今年4月1日現在の、近畿地方の2府4県の設置状況は次の通りです。

人口(2005年国調)

 総合周産期センター

 地域周産期センター

 大阪府

 8817010

    4カ所

      0

 京都府

 2647523

    1カ所

      17カ所

 兵庫県

 5590381

    1カ所

       9カ所

 滋賀県

 1380343

     1カ所

       2カ所

 和歌山県

 1036061

     1カ所

      

 奈良県

 1421367

    

      

 国が示す「周産期医療システム整備指針」によれば、「総合周産期母子医療センター」は3次医療圏に1カ所整備することになっており、ここには「相当規模のMFICU(母体・胎児集中治療管理室)を含む産科病棟及びNICU(新 生児集中治療管理室)を含む新生児病棟を備え、常時の母体及び新生児搬送受入体制を有し、…(略)リスクの高い妊娠に対する医療及び高度な新生児医療等の 周産期医療を行うことができる」ものであることとされています。また「地域周産期母子医療センター」は、「総合周産期母子医療センター1カ所に対して数カ 所の割合で設けるとし、一つ又は複数の2次医療圏に1カ所ないしは必要に応じてそれ以上設けることが望ましい」とし、産科及び小児科(新生児医療を担当す るもの)の設置と麻酔科及びその他関連する各科を有することが望ましい」としています。なお、後方病床については、MFICUNICUのそれぞれについて、その倍の設置が望ましいとしています。

 奈良県における周産期母子医療体制として県当局は、NICUは43床と後方病床76床の合計119床およびこの医療体制を支える一般病床が必要で、MFICU6床と後方病床12床が必要と発表しています。この体制が整えば周産期母子医療センターとしての機能は確保できるといわれています。(注:後方病床とは、NICUから出た児を受け入れる「強化治療室」や「回復期治療室」という性格をもつ病床をいう)

  ところで、奈良県の現状は県立医科大学付属病院にNICU15床と後方病床6床、県立奈良病院にNICU9床、近畿大学医学部付属奈良病院にNICU10床が設置されていますが、実際に機能しているのは県立医大付属病院と県立奈良病院のNICU24床と後方病床6床にとどまっています。近畿大学医学部付属奈良病院のNICUは、同病院のハイリスク児に事実上占用され、他からの受け入れはされていません。

  実際に機能しているNICUが24床あったとしても、急性期を脱した患者が後方病床を経て一般病床に移れなければ、NICUはふさがったまま新たな患者の受け入れができず、医療機関からの受け入れ要請に応えられないのは当然といえます。

 MFICUは県立医科大学付属病院の3床と県立奈良病院の1床ですが、いずれも1床あたり15uのバイオクリーンルームの設置基準を充たしたものではありません。

 実際に、周産期医療体制の整った医療機関を必要とする患者のうち、母体搬送の約4割は奈良県外への搬送が常態化していることをみても、まさに今回の事故は、後方病床や一般病床の絶対的な不足と、実際に機能するMFICUNICUの必要数の確保を怠ってきた奈良県当局の責任が強く問われているものです。

  さらに問題なのはNICUについても、国基準の看護師数が配置されていないことです。こうしたことは県当局の努力で解決が可能であるにもかかわらず見過ごしてきたもので、現場スタッフの激務に耐え、出産という母と子の二つの命を守る尊い献身にさえ応えていない行政の怠慢というほかありません。

これまでの日本共産党の取り組みと住民運動の経過

  日本共産党奈良県委員会は、住民運動と結んで、国会議員団と県会議員団との連携で、新生児・母子医療体制の整備と充実を要求し続けてきました。1993年 6月には、「母と子のいのちと健康をまもるために、奈良県の小児・母子医療体制の拡充を」求める提言を発表し、県議会での質問をはじめとして、奈良県当局 の取り組みを促してきました。

  1993年(平成5年)9月11日には住民運動団体である「奈良県に小児・母子保健センターの建設を求める会」が結成され、奈良県に産科・新生児科・小児 科を総合した機能を持つ小児・母子保健センターの建設要求運動が進められてきました。この運動は、署名活動や先進的施設の見学、患者会との交流や奈良県当 局との交渉などを精力的に行ってきています。

  本年の6月定例県議会の一般質問でも、今井光子県会議員が「緊急に、県立奈良医大病院に総合周産期母子医療センターの設置と、県立奈良病院を地域周産期母 子医療センターとして整備するよう」求めた結果、知事は「平成19年度までに県立医科大学の周産期医療センター等の充実を図り、県内で発生した患者につい ては、県内での医療の提供ができるよう体制整備を図っていく」との答弁を行っています。

 いま直ちに行うべきことは

 @第三者調査機関の設置を求める

  今回の問題については、奈良県の責任において 第三者の調査機関を設置して、事実の調査にあたるとともに、事態の再発防止に向けた具体的な措置が緊急にとられるよう強く求めるものです。この調査機関の 責任で、@なぜこういうことがおこったか、Aどこに問題があるのか、B県の責任は、などを県民の前に明らかにすべきです。

 特に今回の事態について、刑事責任の有無や刑事訴追のための捜査によって、単に医療関係者だけに責任を転嫁することなく、問題の背景を正確に掌握し、再発防止への教訓を引き出すことが求められていることを強調するものです。

 医師法21条は、法医学的な所見がみられる場合には、24時間以内に所轄の警察署に届け出ることを義務づけています。しかしこのことが、医療事故の責任が問われる可能性がある事案で、現場医師に相当のプレッシャーを与えていることも事実です。

 川崎厚労相が、日本共産党小池晃参議院議員の質問に、患者の信頼にこたえ、プレッシャーを感じることなく医療に携われるような法整備の必要性について言及していることをふまえて、今の段階で県警が捜査に乗り出すことは不適切であることを指摘するものです。

 A事実を直視し、総合周産期母子医療センターと地域周産期医療センターの整備に即刻取り組むこと

  奈良県当局は、県人口などから割り出されるNICUの必要数は43床と認めているものの、後方病床の6床を「広義のNICU」としてNICUに加え、さらに実際の受け入れが困難な近畿大学医学部付属奈良病院のNICU10床を受け入れ可能として扱うなど、不十分な認識で対応しようとしています。このことは、いま緊急に求められている周産期母子医療体制の整備にとって極めて有害であるといわなければなりません。

 いま求められていることは、総合周産期母子医療センターと地域周産期母子医療センターの整備を急ぐことです。実際に機能するNICU43床と後方病床76床を確保するとともに、MFICU6床と後方病床12床を確保することが最低限求められていることという認識に立った対策を講じることです。

 これらの病床が確保されて初めて、「県内で発生した患者については、県内での医療の提供ができるよう体制整備を図っていく」との知事答弁が実際に履行されることになるのであり、県当局の県民に対する最低限の責任であると言うことです。

 具体的には、県立奈良医大病院に総合周産期母子医療センターの設置をおこない、県立奈良病院と県立五條病院を地域周産期母子医療センターとして整備することです。

  そのためには、総合周産期母子医療センターとしての新たな病棟の建設や、ドクターカー・ドクターズヘリの配備などを直ちに行うために、必要な予算措置を講じることです。

 B医療スタッフの確保に全力をあげる

  地域の医療体制を確保する責務を果たす上で、深刻な社会問題となっている医師・看護師不足の実態を県の責任で調査を行うとともに、今後も産科医師の減少が 進んでいくことが予想されることから、県立奈良医科大学での入学定員を増やし、地域枠も設定して医師養成を進めることや、研修医を奈良県職員として処遇 し、県内での研修や勤務に魅力のある体制を整備することが重要です。

  さらに看護師の養成をおこなうためには、200人分措置されていた修学資金を05年度に40人分に削減したことを改め、直ちに予算の復活をおこない、県内 の看護師確保に実効性のある措置を講じることとあわせ、助産師の養成定数35名を抜本的に増やすことも緊急の課題として求められています。

 特に、周産期母子医療体制の整備にあたっては、現在、周産期医療の現場で苦労している医師や看護師の過重労働の改善を図ることが重要であることは言うまでもないことです。

 C国に支援を求める 

 奈良県がおかれている周産期母子医療体制の不備を改善していく上で、国に対して必要な支援を求めることもまた重要です。

結び

  日本共産党奈良県委員会と県会議員団は、これ までも周産期医療体制の充実をはじめ県民のいのちと健康を守るため様々な提起を行ってきましたが、今回の事態をしっかりと受け止め、今後再びこのようなこ とを引き起こさないためにも、県民のみなさんと力をあわせて、周産期母子医療体制の整備に全力を尽くすものです。

  各界各層のみなさんから、この提言(案)に対する忌憚にないご意見やご教示をお寄せいただくことをお願いして、結びとします

以 上


 日本共産党奈良県委員会
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