2009年3月15日

世界遺産「古都奈良の文化財」・
特別史跡「平城宮跡」の国営公園化
問題について(中)

 (前号より続く)

特別史跡「平城宮跡」の特徴

 文化庁が所管する特別史跡「平城宮跡」は、文化財保護法(50・5・30・法律214号)に規定される文化財で、「文化財を保存し、且つ、その活用を図り、もつて国民の文化的向上に資するとともに、世界文化の進歩に貢献することを目的」(文化財保護法第1条)とする国民固有の文化資産である。
 「平城宮跡」には、平城宮が創建された当時の建造物は何一つ現存させておらず、創建当時の痕跡は地下埋蔵物として今日まで伝えられているところに最大の特徴がある。
 「平城宮跡」の埋蔵文化財は、地下水によって保護されており、1300年の時代を経て今日に至っていることも、平城宮跡を保護する上で最大限の留意を要することである。
 「平城宮跡」は、これまでは奈良文化財研究所が発掘調査、研究、維持、管理等を行ってきたが、平成13年度に奈良文化財研究所が独立行政法人に移行したことから、現在は文化庁文化財部記念物課が直轄で「平城宮跡」の整備、管理等を行っている。


国営公園化計画の疑問点・問題点


 以上のように、特別史跡「平城宮跡」の基本的な性格をふまえるならば、法で定められている国営公園化は、検討すべき問題点が多い。
以下、「基本計画」と「基本計画(案)参考資料」にもとづいて、項目に沿って疑問点、問題点を列挙する。

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 第一に、国営公園化による特別史跡「平城宮跡」の変質が懸念されることである。
 国営公園の規定は、都市公園法に定められた都市計画施設である公園または緑地とされており、人びとのレクレーションの空間となるほか、良好な都市景観の形成、都市環境の改善、都市の防災性の向上、生物多様性の確保、豊かな地域づくりに資する交流の空間など多様な機能を有する都市の根幹的な施設とされている。
 「平城宮跡」は、埋蔵文化財を中心とする文化遺産として特別史跡に指定され、発掘調査、研究が進められ、その成果が広く国民に開放されてきた。
 特別史跡「平城宮跡」が、文化遺産から国営公園として「都市計画施設である公園または緑地とされており、人びとのレクレーションの空間となるほか、良好な都市景観の形成、都市環境の改善、都市の防災性の向上、生物多様性の確保、豊かな地域づくりに資する交流の空間など多様な機能を有する都市の根幹的な施設」へと変質することが、文化財の保存と活用に資するのかどうかは、慎重な検討を要する問題である。
 また、国営公園化による公園整備では、特別史跡「平城宮跡」の外周ゾーンが設定され(基本計画16n)、これを受けた基本計画(案) 参考資料59nには、外周ゾーンの具体化として、@「外周緩衝緑地エリア」(隣接市街地に対するバッファとして、遮蔽及び修景を目的とした植樹帯)、
A「大垣・条坊道路エリア」(緑陰及び遮蔽・修景のための植樹帯)、
B「東西エントランス」(外周緩衝緑地エリアと連なる植樹帯)をそれぞれ設置するとしている。
 これによって周辺を囲い込まれ、閉鎖された空間になることや、公園として有料化され、入場が制限されるようなことになれば、特別史跡「平城宮跡」の「遺跡博物館」としての機能を喪失するものと言えるのではないか。
 「平城宮跡」の外周に植栽帯を設けるにしても、現在の「昼夜を問わず出入り可能な場所」(基本計画24n)として、これまで通り開放された空間を維持することが求められる。
 国営公園化についての基本計画とその参考資料には、「公園整備」という表現が随所に見られるが、「平城宮跡」は地下埋蔵物を中心にした遺跡であり、公園整備という名の開発とは無縁であることに特に留意する必要がある。
 国営公園化にあたっては、都市計画法に定める都市計画決定がなされることが前提となるが、国営公園となる区域に隣接する区域を、奈良県が国営公園と連携した整備を実施するとしている。そのため、この隣接区域を含めた全体が都市計画決定対象となるとしている。
連携した整備として大規模な開発計画が検討されていること、これらをふくめて整備費用等の分担、維持管理についての分担等については、ここでは明確にされていない。
この点は今後重要な問題となりうる。

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 第二に、平城京を歴史上どう位置づけるかという理念上の問題が持ち出されていることである。
 平城京が置かれた奈良時代について、基本計画(6n)、基本計画(案) 参考資料(19n)では『律令国家の完成や万葉集をはじめとした古典文化の舞台となった奈良時代の都であり、我が国の歴史と文化の始まりの地として、世界に誇ることのできる国民共有の財産である』とか、『律令国家の完成や天平文化の確立など古代国家として本格的な基盤が形成され、奈良時代の政治や文化が展開した』(基本計画(案)参考資料2n)と記載している。
 こうした平城京の歴史的評価は、平城遷都1300記念祭計画で持ち出した理念、すなわち古代天皇の専制国家であった奈良・平城京を「日本文化の基層を形成した時代」とする、極めて偏った規定に通じるものである。この理念規定は歴史的事実に反し、特定の価値判断と歴史観を持ち込む非科学的態度であり、黙認できないものである。
 「我が国を代表する歴史・文化資産である平城宮跡の一層の保存・活用を図ることを目的」とした「平城宮跡」の国営公園化にかかわって、偏った奈良時代の歴史的評価を行う必然性はなく、時代錯誤ともいえる天皇制の礼賛につながりかねない危険な歴史的評価と価値判断を持ち込むことは許されないものである。
 基本計画では、「興味をかき立てるわかりやすい解説や多彩なイベントを実施する」(基本計画7n)、「古代国家の歴史・文化を体感・体験する機会を提供する」(基本計画8n)と基本方針を定めている。この具体化は、基本計画(案) 参考資料の「6.利用・整備計画」に、(2)各エリアの利用・整備方針と主要施設の中に、<利用・活用プログラムの展開例>を掲げ、「宮中儀式、年中行事の再現」をあげている。(基本計画(案)参考資料55n)
 このほか、「表7イベント及び利用プログラム(案)」として一覧表を掲げている。(基本計画(案) 参考資料75n)
 この中に、宮中儀式、年中行事再現として「朝賀、踏歌節会、白馬節会、曲水の宴、端午節会、相撲節会、雅楽・ 舞楽、外国使節団歓迎儀式」などを列挙している。
 専制天皇制時代のこうした儀式等が、史実に基づいて再現されうるのかどうかという「真実性」への問題がまずあげられる。現在、平城京が置かれた奈良時代の行事がどのような装束で、どのように執り行われたか等々という資料は存在しない。
 資料が存在しないのにどうして儀式を再現しようというのだろうか。
 その上、「朝賀の儀」とは、大極殿で行われた主要な儀式の一つで、天皇が元旦に臣下から新年にあたって拝賀の礼を受けるものであり、天皇の権威を高める儀式であった。
こうした儀式を政府・地方行政機関が関与して、その施設で執り行うことは、日本国憲法に規定する主権在民の根本規定に抵触するものである。
 このことは、現在の憲法が「象徴天皇制」を規定するもとで、象徴天皇の国事行為を憲法上の規定として定め、この規定を厳格に運用していることを否定しかねず、民主国家としての基盤を揺るがしかねないものである。
 また、藤原京の当時、この「朝賀の儀」に参列しているのは群臣のみではなく、たまたま来日していた外国使節の一行も参列していたとされる。もしそうであるならば、なおさら侵略的で、外国への支配的立場を示す行事を「再現?」することには、様々な問題点が生じる。
 こうした儀式の再現などと軽々に論ずべきではなく、慎重にならざるを得ないことを指摘したい。
 ちなみに、この基本計画案の中には、朝鮮時代の宮中儀礼の復元が例示として示されている。
 朝鮮半島における王朝時代の宮中儀礼の再現については、豊富な文献・資料の研究・検討に基づき行われていること。そして宮中儀式の再現事業は、王朝時代を完全に断ち切った民主国家のもとで、過去の歴史上の儀式の再現として行われているものであり、象徴天皇とはいえ、天皇家が存在する日本の状況とは質的に異なることを指摘するものである。

                                  (次号に続く)



 
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