2009年3月29日

世界遺産「古都奈良の文化財」・
特別史跡
「平城宮跡」の国営公園化
問題について(下)


 (前号より続く)

国営公園化の疑問点・問題点

  第三に、「平城宮跡」が地域住民の日常生活と関わってきた歴史的経過を踏みにじり、道路や鉄道の移設をもちだしてきたことである。
 基本計画は、一般県道谷田奈良線(一条通り)と市道大極線(みやと通り)、近鉄奈良線を、宮跡区域外への移転、移設を前提に立案されている。これらの取り扱いについて基本計画は、「区域内に道路や鉄道、文化財の調査研究施設等が設置されている。このため、これらの施設の移転・移設等のタイミングに合わせて順次公園の整備を進めていくこととなるが、移転・移設が長期化することも考えられることから、整備の途中段階でも、本公園が担うべき機能を可能な限り発揮できるものとするため、以下に掲げる方針のもと、段階的に整備を進めることとする」(基本計画25n)としている。
 これは、国営公園化に伴う整備計画において、一般県道谷田奈良線(一条通り)と市道大極線(みやと通り)、近鉄奈良線を、宮跡区域外への移転、移設を位置づけるというものである。
 78年に策定された「特別史跡平城宮跡保存整備基本構想」に関連して、「特別史跡平城宮跡保存整備基本構想案の概要」では、市道大極線(みやと通り)について、「宮跡の一体的利用上多くの問題点をもつが、現在及び将来の都市活動を考えると、これらの廃道化は現実的でない」と明記し、今日までこの考え方で「平城宮跡」の発掘調査・研究を継続し保存してきた。
 ところが、2008年5月13日に発表された「特別史跡平城宮跡保存整備基本構想推進計画」では、「(3)周辺地域と整合をはかった道路・鉄道の取扱い」(15n)、「(4)利用動線上の支障となる道路・鉄道の取扱い」(23n)、「(1)景観上の支障となる道路・鉄道の取扱い」(35n)で、「特別史跡平城宮跡内を通過する一般県道谷田奈良線(一条通り)・市道大極線(みやと通り)・近鉄奈良線については、いずれも国営公園区域に含まれる予定である。
 これらは、利用動線・景観の観点からは支障となっており、関係機関において、移設等を含め将来のあるべき姿について、協議・検討を進めることが求められる」などと記載され、文化庁自身が「平城宮跡」内に存在する道路・鉄道の取扱方針を改めるものとなっている。
 「平城宮跡」は、これまで地域住民の日常生活と密接に関わって保存されてきた歴史的経過があり、区域内を通過する道路等についても地域住民の生活に根ざして今日まで維持されてきたものである。また、平城宮跡の今後のあり方を検討する場合は、平城宮跡の国有化が旧地権者の理解と協力を得て初めて実現したことも銘記すべきことである。
 現在の平城宮跡は、1300年の時を経て歴史的に形成されてきたものであり、それを受け入れて今日の姿があり、世界遺産登録においてもその移設は課題としなかった。
 今日の姿であっても「平城宮跡は日本を含めた東アジア地域における古代都城制を伝える貴重な考古学的遺跡であるとともに、地下遺構の価値を地上にわかりやすく表現し、遺跡にしたしみ、学習し、ときには休養することの可能な野外博物館としても整備されている。」(『世界遺産古都奈良の文化財』99年、奈良市)国際的にまれな形で保存されている宮殿跡という評価を受けているのであり、ある意味では理想的な状態で保全されているのである。
 今日のあり様が未来永劫不変であるべきという硬直した立場にはないが、道路及び鉄道の移設・移転については、今日のような過度なモータリゼイションの時代が過去のものとなり、周辺住民をふくめ圧倒的多数の市民が不必要だと考えるようになるような社会状況ではじめて議論されるべきことではないかと考える。
 国営公園化にともなって、県道、市道の付け替えのための都市計画決定が行われようとしているが、一般県道谷田奈良線と市道大極線の移設問題は、地元住民の意向を調査することなく計画され、立ち退き問題や環境問題など計画予定地や周辺住民の生活権を侵害するものとなっている。その上、一般県道谷田奈良線の移設計画路線は、佐紀盾列古墳群(さきたたなみこふんぐん)や「松林苑」などに近く、新たな史跡破壊をもたらしかねないことを見過ごすことが出来ない。
 特に、現在、鉄道線路の地下化が検討されているが、埋蔵文化財を保護している地下水に深刻な影響を与えかねない問題であるとともに、大型開発事業となる地下化構想は、とうてい容認できるものではない。

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 第四に、平城宮の往時に思いを馳せることができる景観形成を位置づけることである。参考資料の2,基本理念及び基本方針の(2)基本方針(20n)には、「古代国家の歴史・文化の体感・体験」として、「…、遺跡の公開や空間スケールを活かした遺跡の表現、平城宮跡周辺の古都奈良の歴史的・文化的景観と併せ、往時に思いを馳せることのできる景観の形成を図る」といい、参考資料の3,導入すべき機能の@歴史・文化体感・体験機能(21n)には、「復元・表示された遺構と相まった宮跡(みやあと)に立ち、周囲を見渡すことにより、…、往時に思いを馳せることができるような景観形成を行う」としている。
 この計画は是認しがたいものである。復元された朱雀門と第一次大極殿も含め、往時からの建造物は現存せず、「復元」された建造物が相当程度において創建当時の内容に近いとはいっても、厳密にいえば「復元」ではない。こうした点も充分、留意することが求められる。
 安易に「復元された=往時の建造物と同じもの」という認識を与えかねないことは慎まなければならない。
 従って「往時に思いを馳せる」景観形成という概念は、世界遺産である特別史跡「平城宮跡」の真実性にかかわる重大な問題との認識を共有することが求められる。
 また、参考資料の5,空間配置計画の(2)ゾーニング A景観の状況(33n)には、眺望景観についての現状分析と課題が列挙されている。
 景観問題について重要なことは、眺望景観と同様に重視すべきものとして囲繞(いにょう)景観を挙げることができる。
 「平城宮跡」からの眺望景観と、「平城宮跡」を対象とする囲繞景観を併せてとらえ、1300年の歴史を刻んできた現状の「平城宮跡」の囲繞景観を重視することが重要と考える。
「平城宮跡」のかつての建造物を復元することが、巨大な仮想空間、レプリカの林立する空間となるようなことは避けることが求められる。

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 第五に、世界遺産である特別史跡「平城宮跡」の国営公園化後の発掘調査・研究・維持管理・運営は、どこが責任を持って行うのかについて、明確な計画は示されていない点である。
 基本計画の7,管理・運営方針 (4)管理運営体制(24n)には「本公園の管理には、都市計画法に基づく管理のほか、国有財産法等に基づく所有者としての管理、文化財保護法に基づく管理等があり、国土交通省、文化庁、奈良文化財研究所、奈良県、奈良市、奈良文化財研究所が関わっている。…、それぞれの管理にかかる各主体の責務や役割を整理、調整した上で、分担を明確化し、公園利用に支障を生ずることのない管理運営体制を構築していく」としているものの、特別史跡「平城宮跡」の発掘調査・研究・維持管理についての問題意識は示されていない。


「特別史跡」の国営公園化はなにをもたらすのか

 以上にみただけでも、国土交通省から示された、新たな「国営飛鳥・平城宮跡歴史公園 平城宮跡区域」基本計画とその参考資料には、さまざまな問題点を持っていることが指摘できる。問題点の根幹は、歴史認識にはじまり、特別史跡「平城宮跡」のもつ重要性、とりわけ地下遺構等の埋蔵物の保護、発掘調査・研究ついての視点の欠如等があげられる。
 その根底には、世界遺産「平城宮跡」を、狭い「観光政策」への利用ということからしか見ず、国営公園化を大規模な「開発」のテコにしようとする奈良県知事などの狙いがみえてくる。
 この特別史跡「平城宮跡」を都市公園化することは、特別史跡指定の中心をなす埋蔵文化財の保護という目的から、多様な機能を有する都市の根幹的な施設への変貌を意味するとともに、今後の発掘調査・研究、保存などに重大な危険をもたらしかねない問題である。


急がれる「平城京」の全体像の解明

 この間、平城京十条や朱雀大路、羅城が発見されたが、平城京の範囲確定の調査は着手されていないし、東市、西市の調査も行われていない。
緊急の課題として、平城京全体の全容解明が求められている。こうした作業とあわせて、特別史跡「平城宮跡」の保存と調査・研究、資料の展示等々を担い、国民的利用に供するには、国土交通省の所管に移すのではなく、充分な予算措置をこうじて、引き続き文化庁の所管として運営することが最も適切ではないかと考える。
以上、この国営公園化問題は、今すすめられている「平城遷都1300年記念事業」とリンクさせることなく、拙速を避け広く県民、関係者の意見もふまえ、慎重にも慎重を期した論議と検討こそ必要であると考えるものである。
                                (おわり)
 
 日本共産党奈良県委員会
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